道路公団はなぜ監査法人に監査を断られたか?

http://d.hatena.ne.jp/cmstriker/20031023#p1

時間がないものですから、とりあえず過去日記ログをサルベージしてまとめました。ちょっと長くなりましたが、よろしければどうぞ。

(10月25日追加)結論から先にいうと、

1、正式な監査を行うのには時間が足りなかった。

2、財務諸表を監査するには、監査基準のうち、選択可能な手続きのうち、どれを選択したか、など、知っておくべきことが多い。しかし道路公団にはその類の情報に欠けていた。(そのほかにも2、と関連して、リスクアプローチの観点から、固有リスク、統制リスクとも高かった、と言えるのですが、この話も後ほどもう少し細かく書き出してみたいところです。)

という二点に集約できそうです。

(10月25日追加その2)この情報について付記します。

基本的に五大紙+ロイター、ブルームバーグのオンライン版の見出しを引用してリンクしました。そして全体像がわかりやすいように論点ごとにまとめました。2003年7月当時のリンクですので、切れている箇所もあります。(確認したところ、朝日と日経は切れにくいようです。毎日、読売は切れている可能性が高いです。)

2003年7月19日

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030719#p2

道路公団関連記事です。各社、論点が異なるので自分なりに整理しました。

1、道路公団、財務諸表提出→債権超過*1。

2、某週刊誌に「実際に内部で作成した財務諸表は債務超過*2だった」と現役幹部がリーク。

3、国会騒然。道路公団の最高責任者である藤井総裁、呼び出されて国会議員や関係大臣に問いただされました。

4、藤井総裁、「確かに内部では作成したけれど、正式なものではない」「そのグループは自然消滅した」「でも作成は確かにしていた」

5-0、(追加です)今朝の産経新聞にソースなしで「総裁更迭、次期総裁は民間人から」と報道された模様。(政府:道路公団の藤井総裁を更迭へ、後任は民間人起用-産経 (ブルームバーグ)http://news.lycos.co.jp/business/story.html?q=19bloombergto8134514&cat=10)

これを受けて5-1、5-2と続くようです。

5-1、扇国土交通相、「道路公団の財務諸表は、とにかく、監査法人から財務諸表監査を受けてください」「まだ仕事が残っているから、藤井総裁は更迭しません」

5-2、福田官房長官、「その結果をみてから、藤井総裁へはしかるべく対応します」

2003年7月24日

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030724#p1

4大監査法人、道路公団の監査拒否 「基準あいまい」

http://www.asahi.com/business/update/0724/043.html

ふつうに断られてます。どうなるのでしょうか。

2003年7月25日

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030725#p1

道路公団、「正式監査」断念 報告書作成にとどめる

http://www.asahi.com/business/update/0725/003.html

(7/25)道路公団正式監査見送り、疑念払しょく遠く

http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt8/20030724AS1F2401724072003.html

あー、そりゃ1ヶ月で「監査」(auditing)は無理ですね。考慮外でした。時間的な制約もあり(たぶん統制リスクの高さもあって)、「保証業務」(review)((10月23日追記これはagreed upon procedureでした。訳語はまだ無い状態です))なら行うってことになったようです。報道のニュアンスでは、「保証業務」は「監査」より信頼性が一段落ちる、という感じですが、個人的には間違ってはいないものの、少し違うように感じました。(後ほど追加します)

2003年8月8日

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030808#p6

監査(auditing)と保証業務(review)とagreed upon procedureの違いについて記述する。

メモなので粗い表現です。後ほど書き直します。

結論。

監査は財務諸表の「保証」である。その「保証」についての責任を、監査法人がどの程度負うかにより、監査報酬が異なる。被監査企業は、支払う報酬とその保証の水準のtradeoffを勘案して、どのくらいの品質を求めるかによって、保証水準を選ぶことができる。

その「保証」の程度を高い順に記述すると

監査>保証業務>agreed upon procedureである。

もともと、欧米では監査報酬(監査人に被監査企業が支払う料金)がとても高額であることに端を発するようです。(日本では3000万程度ですが、アメリカにおいては10億~15億)それゆえに、アメリカでは監査法人に対する責任もシビアになります。被監査企業は、支払う報酬とその保証の水準のtradeoffを勘案して、どのくらいの品質を求めるかによって、保証水準を選びます。

保証業務(review) 日本における中間監査(internal auditing)に相当します。が、手続きは日本の中間監査に比して簡易です。

agreed upon procedure 日本にはこの方法がないので、まだ訳語がない状態のようです。これは「特定項目」(例えば現金だけ、というように調査する勘定科目を限定します)のみの監査になります。主に中小企業などに用いられます。

自分は誤っていたらしいのですが、今回、道路公団に対して行われる「監査」はこの「agreed upon procedure」のようです。「review」はいわゆる「中間監査」的な位置づけであり、恒常的に行われるものを指しているようです。ここはまだ、調査不足ですので補記しておきます。

2003年9月3日

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030903#p2

メモ:今度は監査とレビューの範囲と手法の違いについてまとめる。

今回の道路公団についての保証業務は以下のような関係ではないか?(例えとしての試案)

S=新日本の行った保証

T=財務諸表監査

本来の関係:S⊂T (⊆ではない)

cliantの心証:S≒T

(数学記号はwikipediaに準拠。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E5%AD%A6%E8%A8%98%E5%8F%B7%E3%81%AE%E8%A1%A8

(10月25日追加その3)ここで言いたかったことは、財務諸表監査と保証の関係についてです。財務諸表監査の中には、今回道路公団に対して行われた保証も含まれますが、保証の水準は財務諸表の監査に比べて低いのです。(その代わり短時間で行えるメリットもあります。)ですが、普通名詞の意味合いで「監査」と捉えている方々にとっては、この両者はほとんど変わりがない、と受け止められているのが、問題なのでは、と推量しました。

道路公団関連(もっとあるのですけど、とりあえず関連あるところだけ)はじまりは6月10日の朝日新聞報道の「資本超過」をとりあげたところからです。

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030610#p1

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030625#p3

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030719#p2

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030831#p1

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030903#p2

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030906#p2